【鍵の名前は「喜び」】
扉をひらくとそこは草原だった。
そよ風に草木はゆれ、
ちょうがまっていた。
気持ちのいい場所だな、
と思っていると、
そこに一匹のウサギがあらわれた。
私が知っている
「ウサギ」よりもずいぶん大きい。
向いのおばさんちの、
シベリアンハスキーくらいの大きさはある。
言葉が通じるのかはわからなかったが、
声をかけてみた。
「ウサギさん、お名前は?」
「ぼくはピョンタ」
「そう、わたしはミサト。
あなたはここで何をしているの?」
わたしがたずねると、
ピョンタは急に森の方へとかけだした。
「ついてきて」
わたしはピョンタを見失わないように、
ひっしで後を追う。
しばらく奥へ進むと、湖があった。
水が澄んでいて、とてもきれいだ。
わたしが湖にみとれていると、
うしろのしげみでガサゴソ音がした。
振り返るとそこには、
大きなトカゲが立っている。
トカゲは黄色いベストを着ている。
わたしに気づいたトカゲは
茂みの奥へと消えていこうとしたので、
後を追ってみた。
走りながらトカゲは
「ついてくるな。」とぶっきらぼうに言った。
でも、わたしはトカゲがちっとも怖くなかったので、
そのままついていく。
しばらく行くと、
赤い屋根のかわいい家の前についた。
ずうずうしくも私も家の中に入る。
3匹のちびトカゲと奥さんらしきトカゲが、
オオトカゲを出迎えた。
トカゲたちはまったく私に興味がないので、
私も気にせず オオトカゲに話かけた。
「あなたお名前は?」
「オレはゴモラ」
不愛想なわりに、
聞いたことにはちゃんとこたえてくれる。
「ここはどんな世界なの?」
「ここはコトバの魔法が生きている世界だよ。」
「コトバの魔法?それは何?」
「詳しいことは、アナグマ博士に聞いてくれ。
外でウサギが待っているから、
案内してもらうといい。」
外に出ると、ピョンタがいた。
ついてきていることすら知らなかったが、
どうやらピョンタはこの世界の案内役らしい。
アナグマ博士のところに
連れて行ってほしいとお願いすると、
ピョンタは暗いトンネルの中に入っていった。
ずいぶん奥へと進むと木の扉の前についた。
「ここにアナグマ博士がいるよ」
「ありがとう」、
私は扉をたたいた。
「はーい」と返事があった。
「こんには。アナグマ博士ですか?
オオトカゲのゴモラに教えてもらいきました。」
「聞いているよ。中にお入り。」
オオトカゲは律儀にも伝えてくれていたようだ。
中に入ると眼鏡をかけたアナグマ博士がいた。
手にはカップを持っている。
「ここへお座り。」
と木のイスを指さした。
私はイスにこしかけ、
カップを受け取る。
温かい飲み物がはいっていた。
「ゴモラに、
ここは言葉の魔法がいきている
世界だと聞いたのですが、
どういうことですか?」
「ここは、
コトバで世界ができていることを
知っているところだよ。
動物も草木も花も、みんなそれを知っている。
そういう場所だ。
そして、互いに尊重しあい、共存している。」
争いがない場所なんだな、と思った。
次に私は、
「この世界の扉の鍵は
「喜び」だと教えてもらったのですが、
それはどういう意味ですか?」と聞いてみた。
「コトバで世界が広がるのは喜びだろう?」
アナグマ博士は両手を広げて、
さも当然だ、というリアクションをした。
「だからコトバは喜びの魔法だ。
私はコトバの持つ力を調べている。」
「コトバの持つ力?」
オウム返しにたずねた。
「コトバが世界を創っているんだ。」
「コトバはどうやって世界をつくるの?」
「コトバを1つずつ並べて、
コトバを組み立てる。
コトバを組み立てるとそれが形にあらわれるんだ。」